第35章 荘厳は淑やかに
「……ぅ、っはぁ…ッ」
けほ、と
横たわった彼女の全身が、弾むように跳ねた。
私は彼女の腰に手を回して、自分に寄り掛からせるようにして抱き上げる。
布越しに静かな鼓動が腕に伝わってきて、私はほっと息を細く吐いた。
「……ぁ、真冬……?」
「–––––……」
閉ざされたまつ毛がぴくと一度だけ揺れて、ふっと黒曜石が覗いた。
ゆっくりと、その双眸に私の影が映った気がした。
暗いからよく、判らないけど。
「……ぉさ、む……」
「……うん……そうだよ……」
くたと首を凭れた真冬は、私の腕の中で私を見上げる。
どうしよう。
整理が出来てないのは
私なのに。
「ほんとに、本当……?
ねえ、真冬……?君だよね?真冬?」
「……治が信じる、妾だと……思う、が」
咳き込んだ彼女の細い首には、私の手の跡がしっかり刻み込まれていた。
がくんと揺さぶられた彼女が、頭を押さえる。
「……そう、さね……
酸欠のあと……脳に血が行っていない時に、相手を揺するのは一番駄目な行動……だね」
「………だい…じょうぶ?起きられるかい?痛いところは?」
強いて言えば首が痛いと彼女は笑ってみせた。
こんな時なのに、私のために。
私といえば、視界が揺らいで、
彼女の像さえはっきりしていないと言うのに……