第35章 荘厳は淑やかに
「……起きてよ」
くたりと力の抜けたその身体を揺さぶる。
肩を揺らせば、その伏せるまつ毛がぴくと揺れた。
「ねえ……おねがい……起きて」
彼女をこうしたのは私なのに
首を絞めて、殺そうとしたのは私なのに
その体温に今更すがりつくなんて
どうしよう。
「ごめん……ごめん……ねえ、真冬……起きて」
揺さぶる手が、真冬の動かない身体全部を揺らした。
がくんと首が、力なく横を向く。
背中にゾッと寒気が走った。
どうしよう。
君を殺そうとしたのは私なのに
私が君を殺せてよかったなんて
「憎いんだ……何もかも、何もかもが……
私を置いていった君が、
あの日の言葉を反故にさせた君が、
君のために笑えなくなった私が!」
起きない彼女の両肩を勢いよく掴んで揺さぶった。
どうしよう。
どうしたらいい?
「……ごめん……真冬……っごめん……
っねえ、真冬……!」
暗闇の中の
彼女の白い貌に、頬に、ポツポツと涙が滴り落ちた。
「憎くて憎くて、私、どうしたらいいのか判らないんだよ!」
そう叫んだ私は、それでも彼女を揺さぶり続けた。
「……酸素が回ってなくて……そのときに揺さぶると、脳が……って、これ、真冬から教わったんだよ……?
ねえ、君が森さんといたとき、君から教わったんだよ!
君は君だよね?真冬は、私のこと……」
生気のないその顔をなでた。
するりと指が滑って、私の涙がつうと頬に横線を引いてシーツに染みる。
「私は……私のまま……
あの日の私のままなのに……!」
『お前のその孤独を埋めるものは、この世のどこにも無い』って
織田作に言われた、あの日から……