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威 風 堂 々【文豪ストレイドッグス】R18

第35章 荘厳は淑やかに






「っう…ッ」



荒々しくベッドに放り出された彼女の肢体が、この真っ暗闇に歪んで見える。
ちがう……歪んでいるのは自分の瞳だ。

目の前にいる彼女の手が、私の肘を掴む。
袖にくしゃりとしわが寄って、だんだんその手から力が抜けていった。

ぽとりとシーツにその手が力なく伏せられる。





「……ねえ」


「……、……っ!」


けほ、と彼女の唇から小さく息が零れて、眉が歪む。
この症状はたぶん酸欠……だろう。


脚と腰の関節を押さえつけられた彼女がびくと身体を跳ねさせる。
それを押さえつけて、私は彼女の美貌が苦しさに歪むのを無心で見ていた。


「どうやって押さえればいいのか、とか
そういうの……昔、君に教えてもらったよね」

「……っぅく…」


暗殺者がいかに夜戦に長けているとはいえ、
男の力でいきなり暗闇に放られたら。

その小さな唇が戦慄いて、私を押し返す力を肩でねじ伏せた。



「こうやってさ……
どうやって絞めてどこを押さえれば血が止まるかとか……、君に教わったよね」

「……ッは、ぁ、」



首を絞める手は強くなるばかりだった

何でだろう……愛しさ余って憎さ百倍、とか
こういう事を言うんだね。

このままじゃ彼女が死んじゃうのくらい判っている。



でも許せなかった。
許せない。


「どうして……ッ

君のために今まで生きて、頑張って、笑っていたのに、笑う理由がいきなりなくなった私は……
ねえ、一体どうすればよかったの?」



どうしよう。
目の前が真っ赤だった。

怒りと憎悪と、どうしようもない虚無感が
彼女のその細い首を絞め続ける。


力が抜けないんだ。
どうしよう。

ぎゅうと気道を押さえつけて、私の手の中から
彼女の生気が抜ける。

くたりと身体から力が抜けて、彼女の白い貌が横を向いた。



「……あ、」


どうしよう。

どうすればいいの?
どうすればよかったの?





君の首を絞め続ける私の手が、震えていた。






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