第34章 甘くて苦いもの
「ゆ、幽霊っ!幽霊だ!お、おい太宰、行け!」
「え!?」
夜の靄がひどい廊下には
乱歩さんの声と国木田君の悲鳴、生徒たちの声……に
「行け!目上の人の言うことは聞くものだ!」
「い、いやでもさ、この幽霊……なんか……
近付けば近付くほど大きくなってない!?」
「というかッ……」
兄の方、潤一郎君がきょろきょろと辺りを見回した。
夜の霧なんて不吉すぎて、妹のナオミちゃんも震え上がっている。
「な、なんか幽霊も、こっちの人数が増えると増えてきてないですか……!?」
「何だそれは!?」
逃げましょうと兄妹が国木田君の服を引っ張り、守衛も退路に懐中電灯を向けた。
後ずさる4人のぶんだけ幽霊も消える。
太宰が何やら考えていたが、
「え?」
ばたばたと後ろで逃げる音に振り向いた時、そこには誰もいなかった。
「うわー……まさかの?」
「置き去りですね」
太宰の呟きに乱歩が冷静に答えた。
ここにいるのは、逃げ……戦略的撤退をしなかった太宰と乱歩。
霧の中、幽霊は……
3人?
「乱歩さん、もしかして霧の向こうに『真冬さん』て方いるんじゃ」
「取り敢えず、この幽霊なんとかしなきゃ!」
「何とかって!?」
それはと乱歩が廊下の向こうをバッと振り向いた時
霧がばっさりと切り払われた。