第34章 甘くて苦いもの
カツーン、カツーンと
物静か過ぎる夜中の学校の廊下に、合計6人ぶんの足音が響き渡る。
「……暗いな」
そう意味も雰囲気もたっぷりに呟いた彼に、太宰はにやりと笑みを向けた。
人の不幸もトラウマも、太宰にすれば煮詰めたカラメル並みに甘い。
「なーに?国木田君、やっぱ怖」
「くない!」
あっそう、と乱歩が息を吐きながら飴を銜えた。
幽霊だなんてそんな非科学的で非現実的な––––––
そう言ったのはつい数分前、幽霊が出る雰囲気が漂い過ぎである。
「兄様ぁ……」
「だ、ダイジョーブだよナオミ……
武装探偵社のみなさんがいるから。ね?」
昼間 話を聞いた生徒二人と、守衛さんと、国木田、太宰、乱歩。
その6人。
「どうして、幽霊だのにめっぽう強そうな真冬が不参加なんだ!」
「語弊があるよ国木田。真冬は遅れて来るの。
社長と何やら面白い顔して話し込んでたから、放っておいた方がいいかなって思っただけ!」
カツーンとひときわ甲高い音が廊下を叩き
ヒッと国木田が懐中電灯を前方に向けた。
「……画鋲が落ちただけのようですね」
守衛がそう言って、ザラザラの、緑色をしたクラスのコルク壁に画鋲を差し込む。
「真冬……早く……来てくれ」
「来ても合流出来るかどうか……私たちは職員玄関から入ったけど、
その真冬さんが生徒玄関から来たら、まず会わないでしょ」
太宰の幸薄な物言いに生徒2人も青い顔で廊下を歩く。
「だ、ダイジョーブだよナオミ……何かあったら、ちゃんとボクが……」
「幽霊に効くのか判りませんけど……」
身内の話は着いて行けないが、取り敢えず2人が怯えているのは判る。
乱歩がうーんと何やら考え、そして。
「ワッ!!」
「ぎゃあぁぁぁ––––––!」
悲鳴は学校中に響き渡ったそうな。
誰の、はその人の沽券に関わるらしいので追求しないことにする。
「真冬はほら、一キロ先の針の落下音も判るとか当初言われてたし、この声で僕らの大体の位置も判るって!
……ってアレ?ちょっと国木田?」