第34章 甘くて苦いもの
「なるほど……その7つ目の不思議が、今回のこれだと」
「はい」
目の前のソファには、先ほどの初老の守衛さんが座っている。
幽霊を見た人は彼らしい。
「うーん……幽霊なら、ポルターガイストとかクイックシルバーとかで済ませられそうですが……」
「しかし、それは幽霊と言うよりは……」
「あ、それより生徒さんも見た人が?」
国木田が言う傍ら、太宰が尋ねた。
「ええ……今日は彼らだけ学校に来てもらってます。
入って来て下さい」
事務員の声に、会議室が開く。
入って来たのは、少年と少女。
明るい髪に、気弱そうな顔が特徴の少年。
黒くて長い髪に、綺麗な顔をした少女。
兄妹?なんて
言われなければ全く判らなくて……
「えッと……ボク、谷崎潤一郎です……」
「私は妹のナオミです……」
国木田と太宰の前に浅く座った二人は、同時に頷いた。
「説却––––––二人とも、幽霊見たって?」
「はい」
太宰の問いに答えたのは兄の方だった。
「ナオミの忘れ物を取りに……二人で、夜の学校に行ったンです。
そしたら……」
暗くてボヤついた廊下に現れた人影。
悲鳴をあげそうになった時、その幽霊はもういなかった。
「……それ、いつの話?」
「一昨日です」
兄妹の話をメモしている国木田に、
何やら言っている太宰が今度は守衛に同じように問いかけた。
「私も同じです。
4日くらい前……夜の十一時くらいに、ふと懐中電灯の光に浮いたかと思えば、そこに……人影がッ……!」
「お、落ち着いて下さい……」
がたんと立ち上がった守衛さんにそう言う国木田も
冷や汗をかいていた。