第34章 甘くて苦いもの
「幽霊騒ぎって……ここ、か」
「––––––学校。だよね?」
一方、国木田と太宰は、幽霊騒ぎの依頼を受けて
ヨコハマ私立の学校に来ていた。
初等部、中、高等部とエスカレーター式の学校はとても綺麗で
「あ、すみませーん」
「って太宰ィ!」
学校のエントランスに設置された事務室から
守衛が出て来た。
警備員の帽子を被った初老の人がその声に振り向く。
「武装探偵社です。こちらから入ればいいですか?」
「少々お待ち下さい」
太宰も国木田もあたりを見回した。
学校なのに……生徒がいないというのは、どういうことだ。
しかも今日は平日で、祝日でも記念日でもない。
「あの……今日、生徒さんは……?」
事務員に誘導されて、誰もいない廊下を進む。
会議室、そう木の板が吊るされた広い部屋に通された。
「それが……」
事務員が億劫そうに唇を震わせて。
「学校の七不思議ぃ!?」
「ええ……聞いたでしょう。
幽霊騒ぎです。
生徒だけが見かけたなら単なる噂などで済ませられるのですが……
しかし、守衛の方まで見てしまって」
幽霊、その言葉に国木田が肩を震わせた。
「ちなみに、他の七不思議って……」
「誰もいない音楽室でピアノの音が鳴る……
生物室の人体模型が踊り出す……
美術室の石工が元あった位置から動いている……
夜に階段を数えると一段違う……
夜に学校に行くと教室が一つ増えている……」
依頼をして来た事務員がつらつらと述べる。
「国木田君大丈夫?」
「平気だ。いたって」
あと二つは、と問えば
新学期、いきなり消えている生徒と先生……そして
夜、廊下に現れる幽霊……
と。