第34章 甘くて苦いもの
「国木田くぅん」
「変な声を出すな、変な手つきでこっちに寄るな!?」
ガタガタっと国木田が勢いよく立ち上がり、
妙に緩んだ顔で近寄って来た太宰を牽制した。
社長室から出て来た太宰がこんな調子なのでは困る。
そもそも自分は何と言った、
単に社長にこやつの動向を伝えて、その真意社の者に値せり––––
そう伝えただけである。
「嬉しいよ国木田君、私のことちゃんと見ていてくれてて!」
「付き合いたてのカップルのような会話を貴様と交わす予定などない!」
太宰の頭をわしと掴む国木田が、はあと息を吐いた。
絶妙な横歩きで藻搔く太宰そっちのけで、国木田がごほんと咳払いをする。
「……まあ、貴様のあの行動は割と意外だった。
あの時ばかりは後先考えぬ行動選択が突き付けられていたからな。
よって、社長にもそう伝えただけで……」
「痛たた、国木田君少しは加減しようよ!
人の頭蓋は瓦より薄いのだよ?」
……聞いちゃいない。
その時、社の固定電話が甲高く鳴り響いた。
依頼かと電話を取る。
「武装探偵社です。依頼ですか?」
『はい。依頼したいことがありまして––––』
面白い依頼だったらいいなあ、
嗚呼でも、先の事件の報告書が出来上がっていないうちに新手の依頼は……
と太宰が考えていたその時。
「……幽霊……ですか……?」
面白そう。
そこはかとなく、そして何とは無しに、国木田君の声の様子がおかしい。
これはもしかして、と。
––––––ニヤァ、と太宰が人の悪い笑みを浮かべた。