第34章 甘くて苦いもの
「合格だ」
昼一番、社長に呼ばれた太宰が来れば、開口一番にそう言われた。
そして厳格に口を閉ざしたままの社長は、尚も厳しい表情で、太宰を見据える。
「国木田に貴殿の動向を監視をさせ、入社に至る結果なのか。
その真贋、見極めさせて貰った」
太宰が入社するまでのここ数日間といえば、大きな事件などたった一つ。
あの、隣町を騒がせたバージンキラー事件。
確かに、自分も真実に自力で辿り着けた、
しかしその理由で合格となれば、乱歩さんの方が
自分より真実に至るのが早かったのではないか––––と
そう、思ったのだ。
「否。国木田が評価していたのは、此度の事件の真相ではない。
貴殿が、車に取り残された老齢の方とその孫を助けたというところだ」
嗚呼、とそれで合点がいった。
あの時、二人で助けた市民の二人。
その救助の様子を見ていたのは国木田君だけだ。
「よくやった。その後、手に火傷などはないか」
「ありません。大丈夫です」
問いかける社長に会釈を返し、太宰が微笑む。
国木田君、君への印象を改めさせられたよ。
微笑むというより、どことなく塩っぱい微笑を浮かべた。
「入社御目出度う。探偵社一同、貴殿の今後の活動に期待する」
「それは、勿論。ありがとうございます」
ようやく人を救える組織に、正社員として加わることが出来た。
しかし、当初の目的である彼の遺言……
弱者を救い孤児を守るということをしなければ、あの彼に顔向け出来ないから。
「武装探偵社に入れて良かったと……
今、心からそう思います」