第34章 甘くて苦いもの
「……結局」
「うん?」
唐突に切り出した中也が、三島を……否、三島に繋がれる医療機器を見遣った。
心音のモニタはゆっくりと波形を表示し、小数点以下が絶え間なく変わる別のLCパネル。
規則正しく音を立てるもの、点滴もぽたぽたと養分の液体を三島に流し込んでいた。
「結局、手前ェに管付けさせる結果になっちまったな」
「まぁ、このくらいは想定内。
むしろ今回の怪我とかよりも元からあった傷が開いた、っていう方が大きいかな」
その言葉に菜穂子がぎゅっと手を握りしめた。
あの暗殺者の異能力……長年 その人の元で働いていた菜穂子も、そして旧友の三島も中也も、太宰でさえ
彼女の異能力の真名を知らない。
「その傷、治し方はねェんだよな……?」
「うぅん……彼女の異能効果は先付けだからね。
傷そのものに死の概念が、呪いみたいに付与されているというか」
起因性異能力の強み、それは、事象関係なく対象に必至効果がかかるということ。
それから逃れるには、単に異能力がかかる前に遠ざかるしかない。
「元から"異能力にかからなかった"という、
まあ、これまた別の因果系統異能力ならあるいはどうにかなるかもだ。
もしかすると、だけど」
だが、それでは。
三島も中也も聞いたことがある。
今から2年前……
ポートマフィアの最下級構成員の一人
彼らにしてみれば友人……といえただろうあの彼、
織田作之助。
彼がそれに巻き込まれたことを。
「嗚呼……特異点––––––だッけか」
「そう。相手を必ず死亡させるという異能と、なかったことにするという反故の異能。
二つが相反すると特異点がどうなるのか、いまいち……」
……三島は、望んであの彼女の刃を受け入れた。
幸い、何かがどうにかなってこうに至ったものの、おいそれとは行動できない。
「ま、今回の件での重労役は手前ェだろ。
今のうちに休んどけ……あ、あと菜穂子もだな。
三島のこと心配過ぎて眠れてねェんじゃねぇの?」
中学生男子が女子をからかう如くの笑み。
ニヤついた中也に、菜穂子がガタンっと立ち上がる。
「うお!なんだキレたか?」
「心配だなんて、当たり前じゃないですか」
「あ、そっち?」