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威 風 堂 々【文豪ストレイドッグス】R18

第34章 甘くて苦いもの






チリンと鈴の音が、静かにはじけた。




「この僕が気付かないとでも思ってるの?」

「いいや……思っていないさ」



所は変わって、福沢邸。

病み上がりということもあり、真冬は有休、乱歩も真冬とともにいた。


下ろしたての紺色の袴に 純白の着物。
真紅の帯が、ちらとだけ見える。




「真冬……昨日あたりからなんか変。
変っていうか、なんか、様子がおかしい」


開け放たれた襖、薄明るみの中の和室に二人はいる。




正座をした真冬が、乱歩の髪を撫でた。

外の庭を眺めていた真冬の双眸が、ふと乱歩に向く。



「矢張り、付き合いの長さというのは侮れぬものよな……」

「僕の観察眼なら尚更ね」


ごろりと寝返りをうった乱歩が、こちらを向いた。


真冬の膝上を堪能する彼が猫のようにあくびを漏らす。




「一ついいかや」

「一つでいいの?」

「ふむん。 一つ聞けば、きっと判る」



二人の目がふと唐突に合って、乱歩の翠玉の真冬が映った。



ごく自然な流れで、二人の唇が重なる。

ふわりと真冬の長い黒髪が、視界を舞った。


その温かみはすぐに離れ、何もなかったように真冬が言った。





「あの新人を、どうしてここに連れてきた?」


「特務課の種田長官いるでしょ。あの人がどうか、って。
さすがに長官クラスだと社長も無下に返すわけにもいかなくてさ」


本当にそれだけでいいの?と乱歩の目が訴える。

しかし真冬の黒曜石の瞳は、乱歩のその言葉だけで事態を察していた。





「……矢ッ張り真冬、あの新人と面識あるんだ。

しかも、その様子だと……あまり会いたくなかったとみた」



乱歩が面白げにその口元を緩めて、真冬をからかうように追い詰める。



対して真冬は、何の反応もせずに

ただ曖昧に笑っただけだった。



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