第1章 荘厳にして、可憐
「ねえ真綿…」
花嫁のままの真綿を 、
幹部専用の黒塗りの高級車に押し込んだ。
勿論、優しくだけど。
花嫁のその衣装をまだ綺麗にとっておきたいし、破くのも私だけの役目。
「あの男と––––、一年も一緒にいたあの男と、夜伽はしたのかい?」
運転席にいた、黒い服を着込む部下を
この車内から追いやって、車の窓のカーテンを閉めた。
「ふ、していない方がおかしいと思わないかよ」
「うん、判ってる…」
私は右手で、軽々と真綿の両手を縫い付けた。
白い手首は、何の冗談でもなく
力を入れれば折れてしまうのではないかと思うような細さ。
これが、男と女の力の差であり 違いなのだ。
「ねえ…真綿…?
君のこの身体の… どこに…
どこに、あの男の愛欲が、刻まれたんだい?」
あの男の愛を刻むことを許したんだよね?
真綿の細身の体躯の上にまたがり、
その真っ白な腹を指先でなでた。
暗くて狭い車内に香るのは
あの男の血と、あの男の香水
嗚呼… 嫌だ、真綿を穢していいのは私だけだから。
そんなこと思っておいて、この一年もの長いあいだは
私が、一切真綿に手を出せないように森さんにさせられていた。
本当、あの人は、趣味が悪い。
でももう終わり。
私と真綿を邪魔していたあの男は、真綿が先ほど片を付けた。
それはもう、鮮やかでしなやかな手付きで
あの男の首を掻き切った。
日本人はクビカリゾクだから、
首を取って来て、と首領に言われた。
言われてしまったのなら仕方ない。
袋詰めされたあの男の頭部など、さっさと捨ててしまいたい。
森さんの命令なんかなかったら
あんな物、早く……
早く––––
「一年も、待たせてしまったさね」
「本当だよ」