第1章 荘厳にして、可憐
「真綿」
まわた。
花房 真綿。
それが、今、私の目の前で花嫁衣装を身にまとう彼女の名だ。
そして、私たちポートマフィアの…
最古参にして専属暗殺者 。
「貴様は美しい。
ほら… 笑え。
肩の力を抜くが良い。
どんな表情を浮かべていたとしても
等しく、美しい…」
どこかうっとりしているかのように、私の頬を伝う真綿の華奢な手。
純白の花嫁のベールが、赤く赤く染まっていた。
その美しさに身の毛がよだった。
息を飲むくらいにそれは荘厳でいて、美しい。
嗚呼–––– いつか私は、私のために、彼女を穢し尽くすのだろう。
何にも染まらない、だから真綿。
今は、それも赤い血に染まっていた。
その血にさえも、醜い嫉妬と嫌悪がわいた。
どうしようもないだろう?
「真綿… 戻ろう?拠点に…」
「嗚呼……」
私は、来ていた黒外套を脱いで、真綿にかぶせた。
たとえ血に染まっているとはいえ、他の人たちに……
凡百の人に、真綿の花嫁姿を見せたくない。
「ふむん… 治の匂いがする」
「当たり前だろう」
真綿を使った今回の暗殺のターゲットは、花婿だった。
今回の暗殺を成功させるために、森鷗外……
ポートマフィアの首領である森さんが
一年も前から真綿とあの男を近付けさせていた。
一年もの長いあいだ、真綿はあの男の花嫁として
その責務を全うしていたと思うと、本当に殺意が湧いてくる。