第34章 甘くて苦いもの
「……っくしゅん!」
所は変わってヨコハマ某所、
武装探偵社で太宰が突然くしゃみをした。
此度のこの一件について
太宰含め国木田や与謝野女医……
武装探偵社の事務員も戦闘員も膨大な量の報告書を書かされていた。
「太宰……風邪か?というか貴様風邪引くのか?」
「ぐ、心外……! 私だって風邪くらい引くさ」
社員が必死にパソコンで仕上げる中、その風景に乱歩と真冬はいない。
結局 ––––––……
「……嗚呼、そう言えば。
太宰、貴様昼一番で社長の所に行け」
「え?判ったけど。どうしてだい?」
私の問いに、国木田君が直接聞け、とだけ言った。
……結局、あの廃病院は取り壊された。
勿論、中にあったあの繭もきちんと遺族と軍警の手により埋葬され、
繭をすべて取り払ったことによりバージンキラーもそのものが消滅した。
成仏、と言った方が正しいか。
「……ま、生まれなかった水子たちの怨念が
あんな事件を引き起こしたっていうのも、やっぱり異能力のあるこの世界らしい事件だよね」
「嗚呼……。
異能力のない世界からすれば、ここは異常なのだろうな」
とは言え矢張り、自らもその異常と言える異能力を保持するひとりであることに違いはなくて。
「……異能がここまで大きな事件を引き起こして、街を一つ燃やした。
挙句、男の大半があの街からは居なくなってしまった。
取り残された母親や子供、恋人の悲しみなんぞは到底計り知れない。
矢張り異能特務課がなければ、俺達はここにいないのだからな」
国木田君の言葉を、どこか絵空事のように聞いている私がいた。
……そう言えば。
「ねえ、乱歩さんは?」