第34章 甘くて苦いもの
「……ふーん……なんか、嫌な話があるもンだ」
「ええ。
つまり、バージンキラーは怨念の集合体という訳ですか。
彼らの異能力は『恒常性』ではなく、それは概念的に込みになっていて、本当は『怨念で人を乗っ取る』ことだったと」
菜穂子と中也は、ベッド近くの椅子に座っていた。
「そう。でも、もうこれで一件落着だよ。
今回は武装探偵社と司法省に割と助力してもらったなぁ……」
「ウォッチャー連中とて、表立ってポートマフィアを叩きたくねェんだろうよ。
だから、今回で恩を売っておいて、こっちが手のひら返さないようにか、あるいは牽制をしたつもりなのかってな」
中也がヤレヤレと肩を竦めた。
これでマフィアを鎮めたつもりなら大間違いも甚だしい。
「法も何も縛られない非合法組織に、不文法みたいなことされたって何も言えねえのにな」
「まあね。でも、当分はマフィアも手を出せないよ。司法省には、それだけで御の字なんだろ、きっとね」
そうだ。
いくらマフィアが犯罪組織として名を挙げていたとしても、
今回のように、一大事件に持ち込まれた挙句 街の半分ほどが結局焼却してしまったのだ。
マフィアに限らず、この件に尽力したことごとくの異能力企業は、今しばらく争いの傷を癒さなければならない。
「ところでよ……三島、一ついいか」
「うん? 勿論、いいとも」
ずっと気になっていたことだ。
「軍警に今回のことの顛末を発表、メディアに開示したのは武装探偵社だが、手前ェは最初っから知ってたンだよな?
……なら、武装探偵社の誰かに……
バージンキラーの本拠地の情報を横流ししたのは手前ェの仕業か」