第34章 甘くて苦いもの
私は走っていた。
今朝はやく通電が入って、その内容は、
『三島幹部が目覚められた』との事で。
送り主は中原幹部だったから、
嗚呼、成功したんですねとその時は思った。
ポートマフィア本部ビル、その中にある
浮世離れしたその存在。
えんじ色の絨毯が長く道のりに敷かれる廊下を進む。
その廊下の奥まったところにある木製の大きな両扉を開けて、精巧な造りの施された背の高い鉄柵の奥まで一直線に歩いた。
見えてくるのは、
おとぎ話に中に出そうな豪奢な西洋風の門。
ギキィ……と雰囲気を感じさせる音が小さく鳴る。
「三島幹部、中原幹部」
手入れの行き届いた見事な花畑は、季節など関係なく一緒くたに咲き誇っている。
来ることない夜の空は、永遠の蒼穹で塗り潰されていた。
「おー、早かったな」
「おはよう、上橋」
……その、花畑の中央。
細い獣道を通ったそこにある、
遮光天蓋で覆われたキングサイズのベッドに三島幹部は座っていた。
中原幹部はすぐそばの猫足の椅子に。
「……っはい……お早うございます。
お目覚めになられて本当に良かったです」
私はそう微笑んで言った。
本当に良かった。
「うん、数十万人規模の異能力を使った後にしては、そんなに辛くない」
「……感覚鈍ってきてんじゃねェの?」
中原幹部のその言葉に、私の頭の芯が冷めてゆく感覚がした。
さっと、嫌なものが喉につかえるような。
「うーん、まあ僕の身体では、あと数年が限度だったから。
仕方のない結果だし判り切った事だよ」
「んで、今回の一件……三島手前ェ、全部初っ端から判ってただろ」
中原幹部の青い瞳が三島幹部の紺色を見据えた。
「首領には、中也が眠っている早朝に報告したよ。
だからゆっくり、謎解きをしてあげよう」