第33章 Carmine tears
廊下を疾走する靴音が鳴り響く。
コツコツと差し迫るような、忙しない音が。
埃を立てるような行為は、本来なら『彼』の健康ためにいつも注意されるのだが
その彼が死んだように眠りっ放しの今、そんなこと言っていられない。
ある黒服が車を片しに行き、
ある黒服はドアを開け放ち、
ある黒服はエレベーターを待機させている。
そのため最短距離にして最速で首領執務室へ……という訳でもなく
三島の執務室(という名ばかりの病室)へ……という事でもでもなく。
「首領、中原です」
さすがに処置室のドアを脚で開けるわけにはいかず、黒服が急いで開けた。
「お帰り。挨拶はまた後で。いまは三島君だ」
「はい」
まるでこれから人体実験でもするかのように
大仰な機器が所狭しと並べられ、首領が点滴をまず先に刺した。
「水分と必要最低限の養分はこれで何とかだ。
あとは夢から彼を引っ張りださせて、それから肺と喉の洗浄かな」
首領のその指示の直後、ガラガラと音を立てて三島が運ばれたベッドの隣に
どうという訳かもう一つ、カーテンを隔てた隣部屋へと
違うベッドが並べられる。
「取り敢えず心拍計を繋ぐから、くれぐれも彼には触れないように。
あー、酸素マスク取って」
三島が無菌室に運び込まれ、医術特化の班が幾つものバイタルモニタを隣の部屋へ移動させた。
中也が外套と帽子を脱ぎ、カーテン向こうの空っぽの方のベッドへと急いで向かう。
「それじゃ中原君、三島君のこと宜しくね」
「は。お任せを」
三島の隣で眠れば、取り敢えず俺の『夢の中』で三島と出会えるだろう……
という応急処置で、三島を夢から強引に目覚めさせるには
良い手段だった。
「あー……、ヤベ、眠っみィ……」