第33章 Carmine tears
えんじ色の絨毯を歩き、黒服の男たちが数十人侍る廊下を
一直線に進む。
そして、その大扉が見えるところまできたところで
左右から黒服が阻むように立ち塞がった。
その迫力に臆することなく菜穂子は無表情で言う。
「ポートマフィア五大幹部の三島様の部下、上橋菜穂子です。
至急 首領に話を通してほしいのですが」
「は。お待ちください」
黒服の男が踵を返し、大扉を三度ノックした。
「はい?」
首領執務室からは、当たり前だが首領の声がして。
「上橋菜穂子様が、至急 首領に会いたいとのことであります」
「いいよ、通して」
……本来ならば、訪れて即日 首領に会えるのは五大幹部以上の者のみだ。
それ未満は三ヶ月以上待って、数多もの検査や調査を受けたり書かされたりされた挙句……
時間制限ありでようやく直接話が出来るか出来ないかというもの。
こうして今 自分が首領にお会い出来るのは、三島幹部の事という緊急事案だったから……
そして、三島幹部が五大幹部に執いているという職権の、部下(私)による濫用である。
結局、三島幹部の身が危ないというのに、今の自分では三島幹部の力を借りないと
どうにも対処 出来ないということが、とても悔しかった。
早く支えられるようになりたい。
切実にそう思っていても
現実とは残酷で、いつだって無理を押し付ける。
「失礼致します。ただいま戻りました」
「お疲れ様。こうして話すのは、一昨日あたりののパネル通信以来かな。
それで……嗚呼、彼か」
首領が察し、そして元々用意していたものだろう……
たくさんの医療器具や機器を、処置室に運び込む。
「今、下に部下を回させたよ。
搬送されてきたらすぐ三島君の治療に当たろう」
「はい。お願い致します」
腰をおり無表情で礼をした菜穂子が、首領執務室から出ようとした時。
「上橋君」
「はい」
名を呼ばれて立ち止まり、振り向く。
首領のその赤黒い双眸は何をみる?
「三島君が自力で夢から覚めるまでは、君も仕事を休みなさい」
矢張り私には、三島幹部ありきの私しかいないのだと
そう、言われたような気がした。
「ありがとうございます」