第33章 Carmine tears
「三島っ」
「三島幹部……!」
部屋の奥、横たわる大勢の市民を 彼から遠ざけるように
一人中也の外套を掛けられた、目当ての彼がいた。
駆け寄り、顔色と脈を探る。
「よし……まだ息はある、早く行くぞ」
「はい。車は回していただきました。急ぎましょう」
自分の外套ごと三島を抱き上げる中也の
荷物を受け取る菜穂子。
そんな2人を、乱歩が「ねえ」と呼び止めた。
「––––……っ済みませんが、急いでいます」
「見れば判る。でも君に、聞いておかなきゃいけなくて」
乱歩の翠の目の強さは、誤魔化しの効かない方向だ。
菜穂子が中也を振り向き、言う。
「幹部、お先に行って下さい。私は後から【獣の奏者】で追いつきます。
私の方が先にマフィア本部に着くと思うので、首領にも話しを通しておきます」
「おう、頼んだ。ありがとな」
中也が急ぎ足で体育館から 三島を抱えたまま出て、
黒光りする高級車に乗り込んだのを見届けてから
乱歩と向き合う。
「何用でしょうか」
「僕が聞きたいのは二つだね。
一つ、僕がある所に出掛けた時、受付の人にこう言われた。
『……武装探偵社か、それならすぐにご用意出来る』って」
それは今日の朝ぐらいの時の事だ。
与謝野女医と司法省に出向いた時の事。
そして確か……
「これを僕より前に取りに来た人は、僕と同じタイミングか……
あるいはそれより前に事の真相に気付いていた事になる。
……僕も取りに来た"それ"を先に取って行ったのは君だね?」
––––はあ、まあ……昨日、一昨日くらいですか。
あなた方とほぼ同じことを言ってきた人がいましたので、余分にあっただけです。––––