第33章 Carmine tears
––––––ガシャン
自分の両手から、銃がこぼれ落ちた。
「……そんな、馬鹿な」
どうして。
どうして、どうして、どうして……
「おさ、む」
独歩の隣を走っていた彼。
あの蓬髪に、あの顔に、間違いない。
彼は
「治……?」
妾が、ポートマフィアにいた時に
そばにいてくれた……あの彼……?
「まさか。どうして、武装探偵社に」
彼の経歴は、一言で言えば最恐で最凶な人殺しの履歴書。
つまり、あんなにも血生臭く汚れてしまった彼が
武装探偵社に入れる訳がない、と……
否……現に自分も、その部類にいるじゃないか。
「嗚呼……だから、だからあるじ殿は……」
ようやく納得出来た。
全て、あるじ殿の計らいだったんだ。
自分一人のためにと。
身体から力が抜けきって、フェンスに手をついた。
早鐘のように打つ鼓動を抑え、銃を拾う。
「なら……こうなったのは、運命だと……?」
自分が逃げ出す訳にはいかない。
彼が自分に向けていたものがなんだったのか。
彼が死んだという自分をどれほど案じていたのか。
彼が、治が……
弛緩した身体に力を入れて、よろよろと立ち上がる。
「…………」
真冬は、枯れた黒曜石の双眸で、交差点を見つめていた。