第33章 Carmine tears
「……随分腕の良い狙撃者じゃねェか」
「真冬だよ。あんたの聞いた、妾のお仲間さ」
与謝野女医が倒れたバージンキラー……否、
抜け殻になった憑依されていた市民の脈をとる。
「よし、生きてる音はするね、なら大丈夫だ」
「そうか。菜穂子!怪我はねェか」
「はい」
がら、と瓦礫の上を歩いて菜穂子が頷いた。
「ったく、手前ェに傷付けた日にゃ……」
あの花畑野郎の満面の黒い笑みが浮かび、ぞわりとした。
容易に想像出来てしまうあたり、本当にやりかねない。
「あー……ッと、あんた……晶サン?
俺と菜穂子は早々に三島を回収するから、あとは宜しくしていいか」
早くマフィアに連れ帰って、あいつを……早く。
死んじまう前に、少しでも早く……
「はぁ!? 女性一人をここに置いていくッて言うのかい?
クロにはタマはついてないのかィ!?」
「クロとかタマとか、猫じゃねェっつの!」
つうか、さっき横にいるこの菜穂子が俺を『中原幹部』とか
叫んだなら、もうクロとか呼ばれる筋合いねェんだけど……
「幹部。いつの間にバージンキラーに襲われたのですか。
早く処置を」
「上手いこと言ってねェからまじで。
つーか大体、何でバージンキラーはそこまで男共を……」
中也がそう呟き、アスファルトに転がる市民を見遣った。
中也の重力操作で服や身なりはぼろぼろ、
炎で髪が切れていたり火傷をして血を出しているやつもいる。
こうして見ると、本当にただの市民に乗り移っていたのかと実感させられた。
「真実は三島幹部が判っていらっしゃるかと。早く行きましょう」
「このために妾ァこんなに大きな医療鞄を持ってきたンだ、ついでに軽傷者を運んで頂戴。
由紀を連れていくンなら市民体育館に行くンだろ?」
与謝野女医は見るからに重傷者から手当たり次第に鞄の中身を披露してゆく。
「……判ァったよ」
「承りました」
中也と菜穂子がひょいと市民を担ぎ上げた。
そして思い出したように交差点の端で与謝野女医を振り向き、
「……あー……あんた。
晶、助かった。
三島の一件もな……ありがとな」
そう言って、会釈した菜穂子とともに去って行った。