第32章 Vermilion Bullet ……II
「チッ、手が離せない内にこれか」
中也は今、別の座標指定で
自身の異能力、【汚れつちまつた悲しみに】を展開している。
ここで解除してあいつを迎撃しても、
この女医一人に四十くらいに減ったこいつらを任せる訳にはいかない。
【WR r r r r ––––––ッ】
「後ろです」
勿論菜穂子が放っておくわけがなく、バージンキラーの背後から錫杖で討つ。
逃げられないように菜穂子の保持した【獣の奏者】が横から咬合した。
獲った、と思ったのもつかの間で
バージンキラーが無理やり身体を捻らせて、不時着しながら横転する。
腕一本が巨獣の餌となり、辺り一面が血に濡れた。
少なくとも、ここで戯れている四十ちょっとのこいつらより、
相当思い切りの良い思考をしているらしい。
否……恐ろしいくらいに判断力に長けている。
「糞、あんた避けてろ!」
「言われなくとも!」
狙いは性別的に俺だろう。
ならこの女医は視野に入っていない。
「うぉ……!」
「––––––おいでっ!」
【––––––!】
目の前で鋭利な刃物を振るってきたこいつに、菜穂子の一言で巨獣が割り込んでくる。
得物を持った腕をその牙が捕らえ、振り回すようにぐるんと投げ飛ばした。
間合いから吹き飛ばされたそいつを追った目線が、
あるビルに吸い寄せられる。
「あン……?」
チカチカと何やら高層ビルの屋上あたりが煌めいている。
夜だったら、多分星の何かかと勘違いしそうな、極めて弱くて細い光が。
なぜそんな弱々しい光を捉えたのか、
それともマフィアが持つ反射じみたものかもしれない。