第32章 Vermilion Bullet ……II
「……と、いう事を経て、
貴様がここで何やら奮闘しているのを見つけたという訳だ、な……!」
「熱っつつ……!
国木田君さぁ、さっきからその女性のことを彼女だとかその人だとか、回りくどいよ?
どうして名前を教えてくれないのか私には判らない」
二人がかりでドアを壊しながら、国木田君がここに来た経緯を聞いた。
判らない。
国木田君が、その人の名を伏せて彼女を語ることが。
「判らなくて良い……
っ今は、コレを開けることにだけ尽力しろ……!」
「してるって……!」
拳銃でドアの取っ手ごと壊しても良いんだけど、
それだと車内にいる二人に何があるか判らない。
「太宰、貴様手が……」
「構ってられないだろ、私の手の心配なら要らない。
あとあと何とかなるでしょ……!」
ギギギと木の板を引き剥がすかのような耳障りな音がして、ドアが力尽くの膂力に歪む。
「異能力に頼らない、人間本来だけの力って……不便だねぇ……!」
「阿呆、異能力は便利屋じゃないんだぞ……!
普通の人間のそれを"不便"だと考え始めたら、俺たちはお終いだ」
––––今までは、どうして虎などになったかと怪しんでいたのに
この間ひょいと気が付いてみたら、
俺はどうして以前、人間だったのかと考えていた。––––
以前読んだ、虎の話だ。
彼は人間である自分と、殊類になった自分の所業との間で葛藤し、
そして怖がり、孤独を嘆いていた。
「開くぞ……!」
国木田の言葉とともに、大音声を立てて
車のドアが蝶番ごと圧し開かれた。