第32章 Vermilion Bullet ……II
「はぁ……、全く、行動させられる……!」
軽い足音を立てて、真冬が焼ける街を駆け抜ける。
その片手には眠った市民が抱きかかえられ、
火の粉と煤を払い除けながらある場所へと向かう。
「く……、立て付けの悪い……!」
崩れ落ちた瓦礫を急いでどけた。
残った片手で帯の裏側に仕込んだ拳銃を取り出してスライドを引き、ドアのかんぬきを撃ち抜くとあとは脚力で以って蹴って開ける。
ドアを開けた先、ビル内に瓦礫がたまっていた。
ドアが開かなかったのはこれだろう。
米俵を抱えるよう真冬に支えられた眠った市民ががくんと揺れ、
真冬が金属の非常階段を駆け下りる。
「ち……跳んだ方が早そうさね……とはいえ」
真冬がいた交差点近く、そこかしこにあるビルを、
遠回りになるが––––
なるべく安全な限りの経路で以つて伝って、市民体育館へと向かっていた。
「…………」
やがてある一つのビルの中にたどり着いた時、
真冬が肩に抱えた市民を一旦おろした。
ビルの一階へと急ぎ、床が大きくひび割れたエントランスに
腰をおろして、床下にある格納庫の取っ手を握る。
「く……地崩れで歪んだか」
開かない、そう瞬時に判断した真冬は
床におろした市民を流れ弾が当たらないよう、遠ざけた位置に横たえる。
そのまま片手に持っていた拳銃の銃口を
格納庫の鍵穴にぴたりと当てて、引き金を躊躇うことなく引いた。
がつん、と鈍い音がした。
銃弾が跳ねて火の粉が見える。
「……開いたか」
真冬が拳銃を納めて目を細めた。
それに手をかけ、回収する。