第32章 Vermilion Bullet ……II
フロントガラスが悲惨なほどに割れていて、タイヤに燃える木片が突き刺さっている。
否、注目すべきはそこではなく……
「……たすけてぇ! ドアが開かないの!」
「熱いよぉ……熱いよぉ……っ」
車内に閉じ込められた、年配の女性と孫らしき子供の姿。
バンバンと歪んで開かなくなったドアを必死に叩いているが、
女性の腕にも、その孫の額にもガラスが刺さり、血を流していた。
幸いにも、と言っていいのか、そこまで傷は深くない。
街の外でさえこんなにも炎の熱さに噎せそうなのに、
車内はきっと血もタンパク質も一瞬で茹るかのような熱さなのだろう。
「今助けます」
歪んだドアを開けるのではなく壊すべく、その取っ手を何の頓着なく握り––––––
「熱ッつ!?」
そのとてもじゃないけど触れないくらいの熱さに、手を引っ込めた。
触れただけでジュッと手のひらの肉が焼け落ちる音がした。絶対。
でも、だからと言ってこの二人を見捨てる訳にはいかない。
街の人が大半昏睡に倒れた中、この二人は傷の痛みにより
この事態を作った精神侵犯系の異能力の干渉を弾いたのだろう。
「く……!」
外套の袖を指先まで引っ張り布越しに取っ手を握るが、
皮膚が焼け爛れる感触がする。
矢ッ張り気休めにしかならない措置だけど、ないよりはましだ。
「熱いし痛いし、一人じゃコレきついでしょ……!」
じわじわと手のひらが焼けて血が外套に滲んでゆく。
それでも構っていられない。
こっちがドアを引っ張っていると気付いた二人は、中から押してくれているみたいだった。
交差点の方に人員が集まっているのなら、こっちの方に来る人はまずいない。
矢ッ張り、一人でどうにかするしか––––––
「太宰ッ!!」
「え、国木田君!?」
聞き慣れた声に振り向けば、そこには武装探偵社の仲間である
国木田独歩、その彼が息を切らしてそこにいた。