第32章 Vermilion Bullet ……II
「ふー、こっちの避難は完了……っと」
ぱんぱん、と太宰が手を叩いて煤を落とした。
外套や靴についた煤は、街を焼く業火が毎秒量産している。
「それにしても……あっちの並木の方は消火されてるのか。
向こうから行けば良かったかな?」
そんな事を言いながら、社長との合流点である交差点へと向かおうとした。
あの時、社長は帯刀していた。
だから、バージンキラーに襲われても切り抜けられるだろうけれど。
「……否、救助の片手間にバージンキラーを除けるのは無理がある」
先ほど、私と社長が会った時、双方とも両手に昏睡した市民を抱えていた。
と言うことは社長は恐らく、今も両手に市民を抱えている。
だとしたら……
「……今、何か声が……」
早く社長の所に行かないとと思ったけど、今の声は聞き違いなんかじゃない。
「……て……!」
聞こえた。
ずしゃ、と燃え盛る瓦礫が崩れる中、地獄のような熱さに包まれる道路を渡る。
「な……」
燃える木々やアスファルトがばら撒かれている中
一つの見事に横転した軽自動車がそこにあった。