第32章 Vermilion Bullet ……II
「けが人はこっち!
処置が済んだ方は物資を貰ってってー!」
「慌てないでください!
にしても、何だこれは……!いきなり市民の大半が眠ったぞ!?」
ばたばたと乱歩、国木田が市民体育館内を走り回る中……
目の端から人々、子ども、大人も分け隔てなく倒れてゆく。
「たぶん、この騒ぎに乗じた暴徒化防止のために、
異能力の抑止力で誰かが集団催眠を掛けた……というのが妥当なところだけど……」
「な、この人数を一気にですか!?」
確かに、走ってくる過程で転んだ人やパニックになる人も多い中……
この効果は鎮静にして沈静、
たまたまこんな現場に居合わせた人が、
たまたま精神浸蝕系統の異能力保持者で、
たまたまこんな広範囲をカバー出来るほどの力を持っていたということになる……
「偶然は二つまで。
三つめからの偶然は、それは意図になる。」
乱歩がその翠玉の瞳を細めた。
「……じゃあ、この術者は……この事態を見越していたという事になりますが……?」
「……取り敢えず、敵じゃないってだけで御の字だよ」
近くの病院……この前訪れた警察病院に、まさか別棟があった時は驚いた。
補給物資がもらえる事は有難いが、裏手に造りの同じ病棟があるだなんて悪意にしか思えない……
「乱歩さん!国木田ァ!
こっちに保護者一人だよ!」
「与謝野女医!」
慣れ親しんだ仲間の声に、二人が駆け寄った。