第31章 お花畑で会いましょう…谷崎潤一郎誕生日7月24日記念
「ただいま戻りました」
「……嗚呼、お帰り上橋」
ポートマフィア本部より少し離れた所にある、
マフィア傘下の国際企業。
三島幹部は、前々から北米の組織のことを独自で調べていたみたいですが
ついに首領から本格的に仰せつかった。
自分がやるより、出来る部下にやらせた方が良いとお思いなのでしょう……
いつもなら荒れる前に片すはずの三島幹部の机上が
今は膨大で莫大な量の資料に埋め尽くされていた。
「三島幹部。
少々休憩を挟みましょう。花を買って来ました。
本当は摘めれば良かったのですが」
「花……?なでしこじゃないか。ありがとう上橋」
積み上げられた資料から覗いた紺色の瞳に、
私の手元にある花束が映り込む。
「……上橋、何だかいい事が有ったみたいだね」
「え?」
執務机から少し離れた所に位置する 猫足のテーブルに
花瓶と洋菓子が置かれ、三島幹部がハーブティーを淹れてくれた。
花瓶になでしこを移す。
「わ、判りますか……?」
「判るとも。何年、君の顔を見ていると思ってる」
「…………っ!」
からかうように微笑した三島幹部が、ひとくち飲む。
私と言えば、絶対赤くなったであろう頬と耳を隠したくて仕方ない。
「……それにしても……上橋、どうしてなでしこを選んだのかな?」
問うてくる三島幹部の紺碧の双眸は、花瓶に活けられた花を見つめる。
「季節の花ですから。それに、花言葉も大変良い」
「嗚呼……花言葉、知ってたのか」
勿論です、とは言わなかった。
季節の花だったから。
その理由は二の次で、本当はこの花言葉を知っていたから。
「受け取ってくださって、ありがとうございました」
「懲りないね、上橋は。
矢張り、僕にはその感情が判らない。なのに君は……」
僕に突き放されても良い、そう覚悟していないと
出来ないような事なのにね。