第31章 お花畑で会いましょう…谷崎潤一郎誕生日7月24日記念
差し出された少しの束の花を受け取る。
「え、でも……!」
「貰ってくださいますか。
私は、単に自分の上司が最近温室に帰れていなくて……花がないと寂しそうなので」
「ぷっ、何それ……」
花好きの上司のために花を買っただけの、そのおまけでくれたのなら
これは彼女にとってもボクへの気遣いではなく、当然の事なんだろう。
「ありがとう……じゃあ、もらうね」
「はい。花言葉もあるそうですが」
彼女が、花束についていたカードを外し、ボクに差し出す。
「いいの?」
「ええ。 なんだか、私も旧友に会えたみたいな感じがしたので」
カードを開いて見ると、花言葉は……
開いてぎょっとした。
「……ッて!
待って、『純愛』ッて、君がその上司の方に向けて買ったんだったらこのカードは貰えないよ!」
と言うことは、その花好きの上司さんは……男の人……!?
「 ? 気にしませんよ。私は今更 そんな回りくどい手段なんて……」
「ねえ待って、それって照れてるのかな。
なんとなく判ってきたよボク」
まるで学校の友達みたいに
気軽に初対面の女の子と話していることが、とても異様なのに
それが、当たり前のように思えてきて……
「それでは、私はここで失礼しますね。
……会えて本当によかった」
彼女は最後まで笑顔を浮かべることなく
雑踏の中に紛れてしまった。