第31章 お花畑で会いましょう…谷崎潤一郎誕生日7月24日記念
「ただいま戻りました〜」
「戻りましたわー」
谷崎兄妹が、武装探偵社に戻って来た。
二人の手には、頼まれていた買い物の荷物。
与謝野女医のと、国木田さんのと、乱歩さんのと。
「皆さん、ケーキを買って来たので一息入れましょう」
「ケーキですか!?」
賢治が食いつき、ナオミが頷いて給湯室へと向かう。
あ、と潤一郎が手元の小さな花束を見てから、ナオミに待ってと声を掛けた。
「ナオミ、この花も一緒に花瓶に生けてくれる?」
「あら、私お花落とし……
あらあら……?花の色が違いますけど、お兄様あの後買ったんですの?」
自分が落とした花ではないとナオミが気付くのは早かった。
目敏く気付かれ、そして気付かない方が可笑しいと悟った兄。
「えッ!?あっ、えっと……
あの後、ハンカチを落としたのを拾ったら、お礼にってくれたンだよ……」
「男性が?」
「…………女の子です」
おっやるねぇと太宰さんが冷やかし、国木田さんがすぱーんと蓬髪を叩いた。
乱歩さんがヘェ〜と言いながらお菓子の包装を剥がし、
与謝野女医はにやけながら「どんな娘だィ?」と聞いてくる。
「いや……あの、それがですね」
与謝野女医は恋する少女ぶりに目を輝かせる中、潤一郎が頬を掻き、申し訳なさそうに眉を下げた。
「覚えてない!?」
「どういう事!?」
「はい……」
これには乱歩さんも食いついたみたいで、どすんと机に座った。
国木田さんや太宰さんの視線も痛いけど、与謝野女医と妹の目線がとにかく強い。
「その……なんか、女の子だったのは覚えているンですよ。
でも、どんな声で、どんな性格で、どう笑ったのか……が
全く、皆目検討もつかなくて……」
記憶を掘り出してみても、何一つ思い出せない。
「……谷崎……何か悲惨な思いをしたみたいだな……」
「えッ、あの、国木田さん何か勘違いしてませんか!?」
元気出せ、と肩を叩かれる。
そんなボクの隣にいた太宰さんが、
「……ま、おおかた、花畑にいる誰かさんの
白昼夢拐かしにでも遭ったんだろうね」
とか、意味深な事を言い、同じようにぽんと肩を叩かれた。
「あーやだやだ、これだから本当、花畑なんて行きたくないよ」