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威 風 堂 々【文豪ストレイドッグス】R18

第31章 お花畑で会いましょう…谷崎潤一郎誕生日7月24日記念






「……嗚呼、拾って頂いてありがとうございます」


「……! あ、いえ……」


しわの一つないハンカチを、目の前の彼女に手渡した。




何だろう。

頭の中で、さっきから警鐘じみた音が鳴り響いている。


見るな、聞くな、判断するなと。





「……あの。顔色が優れていません。大丈夫ですか」



平坦な声とは裏腹に、差し出された手は恐る恐るといった調子だった。

その手にモザイクがかかる。
ノイズの入った声が耳を衝き、判別してはならないと悟る。




「……ボクたち、どこかで会いましたか?」

「 ––––––。」


嗚呼、何を言っているのだろう。

初対面の女性に向かって、不躾なことを……




「あの?」


でも、なかなか返ってこない返答に、ついその顔を見た。

そして、え、と声を漏らしてしまった。



黒曜石のような双眸が、あり得ないものを見たように見開かれている。

感情を露わにする事のないその顔は、
まるで一方的に知る友人を見たかのような顔。



(する事のない……?
なんでだろ……なんでボク、そんな事知って……)





「済みません」



唇をわずかに噛んだみたいに、彼女の瞳が伏せられた。

ゆらりと揺れる瞳孔に、もう驚きも期待もない。




「たぶん、いえ、これが初対面です。不躾に見てしまって済みません」


「えっ、あいや、こちらこそ……!
その、なんか……昔、似た人に会ったみたいです」


立ち上がったボクは手をぶんぶんと横に振った。





「そうですか」



笑った彼女の顔に、矢張り見覚えがあるような気がした。



モザイクの掛かるその全貌は、

きっとボクじゃない他の誰かによる認識阻害なのだろう。





「……花」


「え?」


「ハンカチのお礼です。
ちょうどなでしこを買ったので、どうぞ」




ノイズの声でそう言うが早いか、ボクに花が差し出された。



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