第31章 お花畑で会いましょう…谷崎潤一郎誕生日7月24日記念
「嬉しそうだね、ナオミ」
「ええ! だって、お兄様がお花を買ってくれたんですもの!
探偵社の賓客室にに飾っておきましょう?」
モールを歩く兄妹の二人は、元々の御遣いであるものを買うため、メモを取り出した。
「えー……っと、与謝野女医からは補充用の包帯、絆創膏大小二つずつ……消毒液三本だね。
乱歩さんからは駄菓子要求、国木田さんからは雑務用のB5コピー用紙……と」
「見事に売ってる所がばらばらですわねぇ……これってい、」
「滅多なこと言わない!」
小さな花束を片手に、ナオミが兄の手中のメモを見遣る。
売っているお店は、現在地から割と近い所か。
「乱歩さんの物なら軽そうですし、ナオミが行きましょう」
「ありがと、じゃあボクは先に国木田さんの用件から行こうかな。
お店、さっきの花屋から戻る場所にあるけどね」
B5コピー用紙くらい、文房具屋で売っていてほしい物だけれど、
電気屋に行く方が確実なんだもんな……
「二十分後にまたここで落ち合いましょう?お兄様」
「判ったよ。気を付けてね。
……ウーン、もう一人くらいついて来てほしかったなぁ」
いつもなら過保護、とからかわれる台詞だけど……現状、荷物的にもう一人くらいはほしかった。
ナオミを見送ってから、潤一郎は電気屋へ向かう。
「なでしこ……かぁ」
ちょうど、先の花屋を通過した時に
一枚の灰色のハンカチが落ちていて。
聞いたことのないような、あるような、でもやはりないような……
そんなノイズの掛かった声が……
「あッ、これ、落とされましたよ?」
目の前で花を見つめていた少女に
ハンカチを渡した。
「え–––––?」
「…………!」
突然、頭に何か……さっきみたいに、情報を阻害してくるようなモザイクが走って、
目先の少女をつい仰ぎ見た。
(あれ……? どこか、で)