第31章 お花畑で会いましょう…谷崎潤一郎誕生日7月24日記念
「ダメだね、なんか……判らない事があると考えちゃう癖。
思い出せないってことは、ボクの記憶じゃないかもしれないのにね」
潤一郎がそう言って笑った。
苦味の含まれた、泣き笑いみたいな笑顔。
「いいえ––––、お兄様……ナオミだって、そんなの」
「折角、誕生日だって言うのにね」
二人は歩みを進める。
頭を冷やしてくると言う名目と御遣いという事になり、探偵社のそばにある繁華街に来ていた。
「……お兄様、あまり考え過ぎてもいけませんわ。
ほら、ケーキ買って帰りましょ?」
「え?嗚呼、ウン……そうだね」
花屋の前を通過し、八百屋の店主にお裾分けを頂いた。
薬屋には疾病した市民がいて、駄菓子屋には子どもたちの笑顔がある。
ボクたちが守っているのは、こういうものなんだ。
「それでもまだ、全員が幸せという訳じゃないンだもんね……」
「まあ、これだけの何十万人を救おうなんて、烏滸がましいかも……って思ってしまいますわよ?私なら」
守る義務の元に、憲章を掲げてボクたちは元凶を排除する。
昼と夜が入り混じり、混沌とした無法地帯になりつつあるヨコハマの治安は
先の大戦より非常に危険度が増している。
「せめて、この産業革命が終われば、流行り病も感染病も少しはなくなると思うのに」
「病原体そのものを無くすことは無理ですのよ、お兄様」
その人の病気は治せても
元凶である病原体そのものをこの世から失くすことは出来ない。
効率化の機械の導入そのものなら幕藩営工業でもみられたけど
民間の紡績業や鉱山業などに次々と機械が導入されて、
今の日本の空を埋める煙や海にたどり着く汚水は、
人体の健康にとても悪い。
「終戦したと言うのにね」
「ヨコハマも物騒になりましたわよね……」