第4章 静謐に佇む
「あ。 真綿…
お帰り?」
首領と飲み交わし、真綿専用の幹部執務室に入れば
そこには先客…というよりか 侵入者にして闖入者がいた。
太宰治だ。
彼は自分の黒の長外套を
革張りのソファの端に寄せ、にこにこと笑っていた。
ずっと、真綿を待っていたらしい。
健気で愛らしい。
しかして真綿とて、これから眠るわけではない。
いい具合に身体が温まったので、仕事をするつもりだった。
一年分の報告書の量は膨大であり
いくら真綿でもすぐに終わる代物ではなく……
暗殺任務は長丁場になることが多いのでそこはそれ、
一週間くらい寝ずとも機能に問題はない。
「寝ていればいいものを……
妾のベッドを無許可で使う奴など
治しか居ないというに。」
呆れたように薄く笑いながら
真綿は太宰が腰掛けるソファへと歩いてゆく。
「ねえ、真綿」
「うん?」
太宰の、ガーゼの張り付いた頬を愛でるかのように、真綿の華奢な手が這う。
太宰がその淡い体温を味わうように、自身を撫でてゆくその手に手を重ねた。
「……愛してる…」
「…そうか」
真綿の、端的で、いつもと変わりない返答に
太宰は困ったように眉を寄せ、切なそうに笑った。
「そんな顔を––––するものでは」
「ううん。 いつものことだから。
むしろ真綿が私のものになってしまったら、堕落する気がするのだよ」
真綿の体温がなければ、今にも崩れ落ちてしまいそうに
太宰は笑う。
「だからね、真綿……」
重ねた手を伝って、その細い手首を掴み一緒にソファに倒れた。
どさ、と衣擦れの音が聞こえて真綿が太宰の上にいる。
「…どうか、誰のものにもならないでくれ給え。
いつかマフィアから抜けたなら、どうこう言う気はないけれど…」
彼は知らない……
彼女が、マフィアではなく
森の所有物として、この地にいることを…