第30章 Vermilion Bullet ……I
「ふ––––ッ!」
目の前に迫る閃光。
太陽の光を反射させ、鋭い呼気が耳元を掠める。
耳の良い真冬にとって、離れていても近くで聞こえているかのように鮮明。
「ハ。 必死さね?」
「っ!?」
刃が血に濡れる音が響き、真冬の小太刀が
バージンキラーの首の皮を背後から裂いた。
血を撒き散らしながらも振り向きざまに
鉈の錆びた刃が横一文字に一閃されたが、すっとわずかな体捌きでかわす。
刺突がかわされて空を切り、前のめりに勢いのついたその体を、真冬が容赦なく蹴り飛ばした。
うつ伏せに倒れたバージンキラーの肩と太腿を裏から押さえつけ、
歌い囁くように真冬の甘い声が耳朶を打つ。
「むぅ、妾は獲物を嬲る趣味はないのでなぁ……
ここでこう……首を切って、刀だの棒だのに刺し掲げて凱旋したいところだけれど」
ツ……とバージンキラーの首を、先ほど切り裂いた傷を避けてなぞり、動脈を探り当てる。
ぐっとそこを圧迫すれば、バージンキラーは呆気なく気絶した。
異形に乗っ取られようと、人間の活殺点など変わらない。
「ふむん……人間に取り憑いたことが愚行だったさね」
バージンキラーから鉈を遠ざけ、縄で手足首を括った。
因果逆転はキャンセルされてはいるものの、刃を肌に突けばきっとたやすく臓腑を弾き飛ばす。
解体願望。
それが、暗殺者であった紛れも無い己の本性にして本質。
それを変えることは容易ではなく、何度 福沢殿に––––
睫毛を伏せた真冬が立ち上がろうとした、その時
ぱちん、と何かを断ち切った音が微かに聞こえて––––