第30章 Vermilion Bullet ……I
「真冬––––……」
「お怪我はないかや、福沢殿」
発熱した鉈がバージンキラーの手から吹き飛び、空高く打ち上げて
自分の得物を構える真冬が目線だけ振り向いた。
「嗚呼、説明している暇はない。私はこの市民を運ぶ」
「応とも。心配はいらないさね。
妾とて、此奴とは因縁深い相手…
あるじ殿にはお怪我ひとつさせずにその御首級、見事とって参りましょう。
何なら、福沢殿の凱旋に、切り落としたあやつの首を掲げてもいいのだぞ?」
くすくすと肩を揺らして笑うこの彼女なら、本当にやりかねない。
「説却、福沢殿。
このバージンキラーは殺ってもいいのかや?」
「構わんが––––……」
すでに相手は 鉈を遠くに弾き飛ばされており、丸腰状態。
それでも動かずに、こちらを牽制して睨め付けてくる様は
ようやく人間臭い行動である……
「……ま、武器を拾う時間くらいはくれてやるさ。
妾の異能力の有効範囲も上昇しているし」
「……何故だ?」
真冬が社長を背に隠しながら、
バージンキラーと真正面に向き合った。
「妾の異能発動時に、霧が発生する現象と
この今の黒煙が一致しているから、そう判定されたのだと思うけど」
話しながらも、異能 開帳の言葉を奏上する。
–––– 疎影 横斜し、水 清浅……
不思議だ。
"やりやすい"と身体が、異能が感じている。
都合よく黒煙が街にかかっているのが……
まるで、何もかもの手合いを見知った相手と背中を合わせているようだった。
「……今宵は、きっと
見惚れるほどの満月だろうさ」
––– 暗香 浮動し、月 黄昏……
「さ、妾の異能は物理的に全速力で遠ざからねば
死亡することが確実だぞ?」
真冬が動いた瞬間に
社長も同時に駆け出した。