第30章 Vermilion Bullet ……I
「よし……、この三人でひとまずこの区域の避難は出来たか」
肩に二人を、両の手で一人をかかえ上げて
市民体育館にいる国木田たちに渡せば、
それでこの場の避難は完了する––––
「……男」
ぱちぱちと火の粉が爆ぜる音に混じり、
その声は囁くよりも小さく 鼓膜を震わせた。
目の前にはぼろぼろの外套を焦げつかせた市民……を
乗っ取ったバージンキラー。
鉈はさぞ熱いだろう。
金属の熱伝導に 借りたうつわの人間に限界がきている。
バージンキラーの利き手と推測される右手は、
鉈の熱さで火傷を負い、ぽたぽたと血を垂れ流していた。
「–––––チ」
腰に帯刀した刀に手を置こうとして、不覚に気付いた。
このままでは、刀を振るえない。
地面に担いだ三人を放り出したとしても、庇いながら戦うのは無理があり過ぎる。
最悪だ……
昼間だから出ないだろうと思っていた事が裏目に出た。
市民が寝るなり避難するなりしてしまえば、自分が見られる恐れがないというのに。
「不味い……」
どうする。
戦うなら この三人を見殺しにすることになる、
たとえ全速で逃避したとしても……きっと……
『あるじ殿』
ふとそんな焦燥した頭に浮かんだのは
聞き慣れた彼女の声音
嗚呼…… よくある、自分の危機に際した時に
頭をよぎる好きな者の呼び声とは
多分、こんな感じなのだろう。
なら、信じて待つしかない。
殺されるまでのほんの一瞬を信じる。
「–––––来い、真冬……!」
「……ハ、呼ばれて飛び出て何とやら、ってやつさ……な!」
がつんと 鈍器のようなものを弾いた音が
灰の舞う空に甲高く鳴り響いた。