第30章 Vermilion Bullet ……I
「……く、少なくとも十往復は 不可欠だな」
社長と少し離れた場所では太宰も、
夢に囚われた市民を肩に担ぐ。
もうもうと向こうでは黒煙が吹き上がり、未だ幾度となく爆発音を上げている。
ここはヨコハマの端っこに位置する、決して大きくはない街。
一つ消えたとしても、歴史に刻まれるような騒動ではない。
せいぜい二週間くらい新聞やテレビに取り上げられるだけだ。
それでも、ここはヨコハマの中……
「……我々 武装探偵社が、今 この時、この街を守らずして
何が治安維持組織と言えようか」
一言で済ませるなら、これは守る義務である。
強い者は弱い者を救い、統率する立場に立たなければならない。
そんな、話を。
ずっと昔に、あの彼女とした事があった。
人間は誰しもが強く在れる訳ではない……
人間個人、其奴なりの『頑張った』では足りぬものもある。
立つ瀬のない弱者を救うのは紛れもなく
その上に立つ強者。
でも、だからと言って 弱者に光が照らされなくてどうするのかと……
「社長、私は向こうの人を運びます」
「嗚呼、私もこの三人が終わったら行く」
火の匂いを嗅いでも、火の熱さを感じとっても
一向に起きない市民のこの現象は、途方もなく不気味で不吉だった。