第30章 Vermilion Bullet ……I
「…………」
頬に温い感触が伝う。
手の甲で拭えば、それは真っ赤だった。
久々に自分の血を見た気がした。
「……貴方が、いえ、バージンキラーが纏う殺気は
常人のそれとはまったく違います。
向き合えばすぐに判るでしょうね。
たとえ、誰に乗っ取っていたとしても」
「ヘェ〜……それで、どうすルんです?
この、この!
この姿の軍警を、貴方は殺せますかァ!?
何の罪もない、嗚呼でも、あるとしたら、乗っ取られたという憐憫の塊のこの姿のバージンキラーを殺せると言うんですかァ?」
赤の他人。
ああそう、まったくの赤の他人。
ましてや、バージンキラーが乗っ取っている軍警の男は、
彼に乗っ取られた事すら判らずに私に殺される。
「……殺せないでし……」
「殺せますね」
私は錫杖を振るう。
鎖が纏わり付き、耳障りな音を立てて引き戻る。
赤の他人。
殺しても罪悪感の湧かない相手として
絶好の状況。
「……正気ですかァ? 貴方は」
「ええ、とても。私は冷静です。なので––––」
がん!と錫杖と、バージンキラーの持つ
警察拳銃の銃把がぶつかり合った。
火花が赤い光を吹き飛ばして散る。
「幹部のお目汚しになる前に……この場でとっとと死んでください」
「やッてみなァ! ポートマフィアのお嬢さん!」
人知れずして……
獣遣いと異形の争いが
幕を開けることとなった……