第30章 Vermilion Bullet ……I
「由紀、火が……!」
「嗚呼、う……っ、けほっ」
もうもうと上がる黒煙。
三島の肺が一呼吸でやられ、噎せた。
中也が駆け寄り、背を叩く。
「一体、何なんだよ……こりゃァ……」
中也が帽子を押さえつける。
でないと、この灰の混ざる爆風で飛びそうだ。
「兎に角、爆心地に行こう」
「莫迦言いなさんな、由紀は駄目に決まッてるだろ!」
「いや、今が一番 良いタイミングなんだ」
与謝野女医が三島の腕を掴み 引き止めたが、
三島は苦しそうに咳を吐いて笑う。
「何かいい案が?」
「うん。あーあ、お陰で大して乗りもしなかった新車一台、使い潰しちゃったな」
え?と与謝野が内心で首を傾いだ。
話が食い違っている。
彼は、三島はきっと次の手段のことを当たり前のように言っているんだろう。
「……どういうこと?」
「今 あそこで燃えてるの、車だよ。ガソリンに引火したんだ」
そうじゃない、一体全体 どういうことだ。
判らない。
「ほら、これで今、すぐそこの市民体育館に
この辺りの近隣市民は集まってくれただろう。
異能力を広げる範囲が狭ければ、僕もそんなに力を使わなくても
この人数程度 すぐに寝付かせられるよ」
判らない?
判らない。
「まさか、こうなる事を予想してたってのか?」
「嗚呼。
まあ、その辺りはこの場でどうにか調整させるつもりだったけど。
良かった、どうやら……事はうまくいったみたいだ」
判らない。
一体、どうすれば
そんな飛躍して破綻した思考が出来る?