• テキストサイズ

威 風 堂 々【文豪ストレイドッグス】R18

第29章 La Vierge…III





(凄い臭い……)




トン、と【獣の奏者】で顕現した獣から降りて、

菜穂子が口元を覆う。




ガソリンの濃い臭いと、炎の臭いだ。




逃げる人に時折 避難場所を指示しながら、

黒煙の上がる方へと歩く。



背後から着いてくる【獣の奏者】が

時折 毛並みにつく灰を払い除ける。



市民の皆が、その巨躯の獣を避けるように逃げ惑っていた。





軍警が目立つ所にいた。


彼も市民を誘導することで手一杯のようだ。




「済みません、何があったんですか?」


「嗚呼……お嬢さん、さっさと逃げた方がいいよ!
車が突然 爆発したんだ!」



その顔は青い。


自分も逃げたい、自分一人でなんてどうにもならない、

そういう諦めと葛藤の顔色。




(……あれ……この人)



この前 ポートマフィアが誘拐した、

バージンキラーに襲撃れたあの軍警と同じ部署の人……じゃないですか。




「あの。間違ってたら済みません。
もしかして、バージンキラーに襲われた方の二人組の方ですか」


「 ! お嬢さん、その男知ってるの!?
そいつがどこにいるかしらない!?」


がしっと痛いくらいに両肩を掴まれ、凄い気迫で迫られた。


怖いし、痛いし、何よりこの焦り具合は一体……




「済みません、離してください」

「あっ……も、申し訳有りません!」


自分の後ろにいる【獣の奏者】が牙を剥いている。

待て、と手で制して軍警に向き直った。




「あいつ––––バージンキラーに襲われて警察病院に搬送されたのに……」


「仮に、彼が死亡したとすれば口封じにはなりますね」




菜穂子が灰の舞う空を見上た。

時刻はそろそろ正午を迎える頃。




そろそろマフィアの方に戻らないと––––




「そんな……根拠もなく誰に殺されたと言うのですか!?」





この、彼は。


そう思った瞬間に、赤い色が舞い散った。


/ 686ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp