第29章 La Vierge…III
【Wooooo––––……uuu……n】
その音は高く響く。
身の毛もよだつような遠吠えが、空を裂いた。
天より その巨躯が
異能力の証拠である、淡い碧色の文字帯をまとって舞い降りた。
異能生命体。
このヨコハマの地を、まるで故郷の草原のように疾駆する一頭の獣。
高潔であり孤独であり孤高であること。
それが、上橋菜穂子が望んだ、異能力【獣の奏者】のカタチ。
異能生命体の核となったうつわである。
上空へと獣と少女が飛躍し、
そして、あの速さで民家の屋根を駆け去って行った。
「……ふうん。そーいう事、か。国木田」
「……済みません」
乱歩の翠玉の瞳が 目の前にいる人間を、
国木田を興味深そうに見つめた。
きゅっと目が細められる。
「……なんで?
謝るってことは、自分の判断を信じない事だよ。
あの彼女がどちら側の人間なのか……それはさて置き、彼女の善意を無下にする事だよ」
乱歩が社長に電話を掛けている。
それでも彼から紡がれる言葉に、表情を伏せるしかなかった。
判断が間違ったなんて、言わない。
今は。
「––––けが人は 市民体育館へ!
動ける者はけが人を運び、物資を配って下さい!」
武装探偵社の一人として、目の前のことにまっとうするのみ。