第29章 La Vierge…III
「……!」
「何……?」
国木田と乱歩が周りを見回し、
ユウは震源の方をまっすぐ見据える。
「あちらのようですが」
ユウが冷静に示した先、逃げてきたのか
人の群れがこちらへと走ってくる。
「チィ、乱歩さん、市民の誘導を……!」
「でも、現状確認しないとだよ?」
避難指示の看板を指しながら、惑う人を誘導してゆく。
何があったのか、けが人は何人か。
それはこの場では判らない。
「……お二人は、この場を何とかしていたらいいのではないですか?
私が見て参りますので」
唐突に耳朶を打ったその言葉に、耳を疑い少女を見た。
少女は煙の上がる向こうを見ているだけ。
「……いいのか?
俺は貴様を敵とは思わない、だがユウは違う。
ここで反故にして逃げても、咎めるものは誰もいない」
「ええ、ですね。 でも仕方ないじゃないですか。
手詰まりでしょう、二人では。
自由に動ける物があるのなら、使わないでどうするのですか」
少女は笑わない。
ユウが す、と息を吸った。
それを目の端に捉えてから
俺と乱歩さんは、動き出す。
「さあ、おいで–––––【獣の奏者】」