第29章 La Vierge…III
「……どういう風の吹きまわし」
「其の方も、街の視察だったのではないか?」
まあ、そうですが……と少女が頷いた。
どうやら連れの人もいない、彼女が一人で出ているのは
不用心とも言える。
今は昼だが、夜……は、あの獣がいるのか。
「あの。
矢張り、私一人でも足りますので。
あなた方に着いて行って、何をされるかも判りませんし」
この少女にはあの獣がいる。
けれど、街中で あの姿を晒したなら
一瞬で市民を恐怖に陥れる。
「我々はこのまま街を 歩くだけです。
人探しはしますが、兼ねているのは其方なので」
真冬を探す。
乱歩さんの目的を押しとどめる形になってしまったが、
これならなし崩し的に押し切る理由は許容範囲だろう……
「……判りました。
でも、何かあったら、私 一人で戦えますので。
あなた方のこと、庇いませんから」
「……嗚呼、判った」
言って、すっと俺から目を逸らした。
「行こう、国木田。あ、ねえ、君 名前は?」
乱歩が問えば、少女が平坦な声で答えた。
「––––……ユウと呼んで下さい」
「ユウ?」
「はい。
あなた、の意味のyouです。
それに、私の苗字の頭文字がUなので」