第29章 La Vierge…III
「……私としても無意味で無利益な争いなどしたく有りません」
マフィアなのにか、と思ったのは
この少女らしかぬあの職場へのイメージが……
良いものではないから。
でも、なぜか。
乱歩さんが聞かないから、という理由もあるけれど
この少女があの悪しき犯罪組織、ポートマフィアの者なのだと言いたくなかった。
少女の纏う上着のその下に
海外から密輸入した拳銃が忍ばせてあることも判っていた。
入手方法が 法に触れていることも判っていた。
ただ––––尚、それでも。
「その様子の限りでは、まだ不審人物には会っていないようですね。
ヨコハマを理由もなく荒らすような事は今は致しません。
私の上司である方も、争いは花より綺麗ではないと断言していますから」
「……そんな奴が、そっちにだっているのにな」
なんだ、この少女も
街中で会えばこうして普通に話せるではないか。
聞けば答えてくれるし、冷静で端的ではあるが、冷たくはない。
少女に対してのあの夜に決めつけた印象を
ほんの少しだけ、撤回した。
ポートマフィアだからと言って
何も暴力一辺倒に睨みを利かす輩だらけではないという事だ。
「……ただ、こちらとあなた方は、何も約定など結んでいませんから。
そこは思い違いなさらないよう。
敵の敵は味方という訳ではないのですから」
失礼します、と
少女が行儀よく一礼してから、踵を返す。
だが自分は。
「あ––––、待て。
時間があるのなら、少々 こちらに付き合って貰えないだろうか」
そう言っていた。