第29章 La Vierge…III
「えっ、なに? もしかして国木田の彼女?」
「「はぁ!?」」
乱歩の斜め上どころか真上直行した言葉に
国木田と少女が 睨み合う。
「えー、だって、僕 その子のこと知らないし」
尤もだ––––
何しろ、こんな昼間のこんな街中で
あの巨躯の獣を出しているわけにもいかない。
つまりあの夜、あの獣を 御していた
騎手であるあの少女が目の前にいるのだが……
「……それからふと耳に入って来たのですが、あの子は私の……」
言いかけ、続きを告げる必要もないとばかりに言葉を切り上げる。
「否……それで、何をしているのですか?」
じと、と睨みを利かせる少女が、平坦で抑揚のない声を響かせて来た。
彼女に今ここで戦う意思はないみたいだ。
懐に忍ばせていた手帳から手を離す。
「……いや、俺らは」
「君、やっぱり国木田の」
乱歩が空気を読まずに 目を輝かせている。
「あの……私は、別に。
この間が初対面ですので。
それに、私には想い人がいますので。
その……えぇと、済みません」
「国木田が振られたみたいなことになってるね」
「違いますから」