第29章 La Vierge…III
人混みでごった返す真昼……でなくて、本当に良かった。
「人、多いね〜。通勤ラッシュ?
まあ、と言っても男が見るからに少ないけどね」
「ええ……、悪しき事です。
しかし、この事態もそろそろ終結しますから。それまでですよ」
朝、というよりは昼よりの午前。
乱歩と国木田は、乱歩の言う心あたりを回るべく
街を迷いなく歩いている。
「……それにしても、昨日の国木田の話だけどさぁ。
僕が寸前でナビ出来たから良かったけど、あの後どうしたの?」
「嗚呼––––、あの、地獄にいそうな獣の事ですか」
「ヘルハウンドのこと?」
乱歩ががり、と飴を噛み砕いて尋ねる。
ヘルハウンド、何方かと言えばバーゲストのような……
「時速300キロ。
どんなものなのか、その場に居なかった僕じゃ何となくしか判らない。
それでもあの生傷の多さで、どれ程の膂力で、夜中に出会ったらどんな脅威なのかは判るところ。」
あの夜中、国木田と共にいたのは社長だった。
もしも真冬と二人だったなら、押し切れたのかもしれない。
夜戦を大得意とする真冬だから、
慎重になった国木田とは、結果がたぶん違っていた。
でも、これでよかった。
殺していないし、殺されていない。
まだ、味方とは言わないけれど、ここまで来たのなら いっそ
敵に回さなくてもいい方法が––––
その時、どん、と国木田が誰かと接触した。
国木田との身長差があったからか、衝撃で小柄な相手の身体はよろめいた。
「っ……済み…… ––––ッ!?」
「済みま……、嗚呼っ!」
昼前の 街中で
その二人は出会う。