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威 風 堂 々【文豪ストレイドッグス】R18

第28章 La Vierge…II




「わッ」



自分のスカートのポケットに入れてあったスマホが微細に蠢動していた。


つまり電話。



差出人を一瞥すれば、嗚呼、彼か。



ふっと無意識の笑みが零れたらしく

自分は作戦会議をしていた居間を出た。



一瞬で気分が高揚し、上機嫌で電話に出る。




「珍しいねェ、朝に電話なんて。
お早う、由紀」


《うん、お早う晶》



電話の向こう、いつもならこの時間
夢の中を歩いているはずの彼が平静時の声だから、

嗚呼、寝てないんだと 職業柄判ってしまった。




彼の名前は由紀。

それしか知らない。



互いの職業のこと、知人のこと、本名のこと……

そういう類の詮索はなし。




ただ––––



妾も由紀も 異能力者だから、どこかの異能企業に属しているという事までは必然的に判ってしまう。





《今、もしかして出先かな》


「当たり。
でも、こっちの会社の仕事だから、出張ッて感じかねェ」


宿舎の壁に寄りかかりながら言った。

彼との話はまた後で。




《ところで––––性急で悪いのだけれど、
出張って もしかしたら今、ヨコハマの外れの街にいたりする?》


「……? ウン、合ってるけど」


傷んだ毛先をいじりながら、頷いた。



彼の穏やかな声は、慌てていない。

然りとて、日曜日に出掛ける少女じみたテンションでもなかった。



《あー……、その、なし崩しになるから先に謝るね。
済まない、この後 僕と会ってほしい》


「へェ、久々だねェ。いいけど、てことは由紀も近くにいンのかィ」


妾は由紀と話しながら、急いで居間に戻る。

こういう時は大概、早めに行動しておいて方が吉なのだ。


由紀がそう言っていた。




《うん、いる。
あ、僕の職場の同僚もいるけれど気にしないで》




珍しいな、と思った。

職業とか、そう言うのは聞かないのが妾たちの暗黙のルール……




取り敢えず 久しぶりに彼と会える、

自分たちを相互利用するつもりの逢瀬でも



断る理由がなかったから。

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