第28章 La Vierge…II
「……嗚呼、ほら、言わんこっちゃない。
眠った人はちゃんと起こしておいてね。
僕はやらないよ。
労力を要するし、男の夢なんて大概 下賤なんだから。
食べたって美味しくない」
会議室の外、どさどさと機材を取り落とした音が積み重なる。
持っていた黒服の部下たちが、数人 眠ったためだろう。
「……ううん……判ったよ。上橋」
「はい」
拗ねた子供を諭す 母親のような顔をした三島が
そばにいた菜穂子を呼んだ。
「ちょっと中也と話すから、外の人たち起こしてきてくれる?
終わったら外の見回り。あとで連絡入れるから」
「かしこまりました」
端的な命令に頷き 踵を返して菜穂子が一礼して部屋から出て行く。
ぱたん、と丁寧に両手で扉が閉められた。
「……で、中也。
君はなにをそんなに心配してるんだい?
何かあるのだろう、今回のことに。
何か感じた?」
「もし……俺らと同じように、他の異能企業がこの街を焼却したり、そう言う類のことを思いついて……
やっちまったら、打つ手あんのか?」
「嗚呼––––そっちか」
中也の質問に 三島の顔が思案するようにこちらを向いた。
「……結果的に僕の異能力なら
すべての"結果"において、対処可能ではあるけれどね。
この街を丸一つ 包めるような異能範囲の規模を誇れるのは、近場では僕だけだろうし」
ふう、と息を吐いた三島の体は、疲労が溜まってきている。
外の空気が悪いから、傷と体に障っているのだ。
「……ま、ただ、そうなれば 僕の途中脱落は免れない」