第28章 La Vierge…II
「…………」
こんなものか。
ふう、と一息入れて真冬が顔を上げた。
「……よもや、"最終手段"の準備をせねばならぬとはな」
自分が言ったのだ。
自分のあるじを信じて。
この街を一切 焼却し、炎熱に対応したバージンキラーを仕留めれば良い、と。
しかし、それでは。
「……こんな時こそ……」
もし––––と考えてしまう己が愚かしい。
自分は、あるじである福沢殿に害なす者を
処理すればいいだけであって。
引いては、この騒動はゆくゆくは福沢殿の
道筋の障害物になるから、こうして駆け回っているわけであって。
自分が動いたぶん、その障害物を露払い出来るのなら……
「福沢殿……」
かつてあるじがいた。
彼は、彼は––––––……
ぎゅっと手を握りしめた。
唇を噛んでしまったみたいで、慣れた血の味が薄っすら口内に広がる。
福沢殿の隣にたてる 自分で在れるのなら。
暗殺者として、私邸の執事としてあの彼の隣にいた
あの頃よりも……自信を持てる自分で在れるのなら。
「福沢殿………今度こそは」
"真冬"。
早く帰って、彼の付けた名で、名前を呼んでほしい。